作家のメッセージ
『ローマ 未来の原風景』とハシグラフィー誕生について
「ローマは一日にしてならず」「すべての道はローマに通ず」……。その長い歴史から、ヨーロッパ人の精神的な拠り所と言われているローマ。 日本に生まれ、40年以上アメリカで過ごしてきた私にとっても、西洋文明の原点であるその地を体感することは、何か特別な感慨をもたらすものです。ローマでは、あらゆる場所で古(いにしえ)を感じ、古きローマ人たちが創った建造物には、当時の人々の想いや魂が今も鮮やかに生き長らえているように感じられます。「どれだけの人が(現代では遺跡と呼ばれる建築物の)建設に携わったのだろう? 一日の作業を終えた後、建設に従事した人たちはどんな時間を過ごしていたのだろう? 愛する伴侶が居て、家族が居る日常の風景はどんなものだったのだろう?」……そんなことを想像しながら不思議な心地を味わうのは、私だけに限ったことではないでしょう。
私はこれまで、写真家として主に二つの時間軸で作品を表現しようとしてきました。
一つ目の時間軸は、写真の特性を最大限に活かし、絵画では表現出来ない臨場感溢れる作品として「一瞬の美」を求めて捉えた、Action Still Life(アクション・スティル・ライフ)と呼ぶ作品群の中に存在しています。Action Still Lifeとは、Still Life(静物)が肉眼では確認出来ないほどの一瞬に見せる躍動的な姿を、十万分の一秒とも百万分の一秒とも言われる超高速ストロボで捉えた作品群です。人の一生を百年と想定したとしても、46億年とも言われる地球の歴史や4〜5百万年前に始まったと言われる人類の歴史から見れば、人生はAction Still Lifeを撮影する際の超高速ストロボ程の瞬間の出来事です。時の長さはとても相対的なものです。どんなに極小に切り取っても、それぞれの瞬間の中には、数えきれないほどのドラマや出来事が濃縮されて溶け込んでいる。この作品群には、そんな『一瞬の永遠性』に馳せた思いが込められています。
そして二つ目の時間軸を表現するのが、HASHIGRAPHY(ハシグラフィー)です。同作品群は、「今から千年後に発見された作品」という時間を超越したコンセプトを基に、千年後の世界に生きている人々を意識すること、すなわち作品を通して考えられないほど長い時間と向き合うことを前提として、写真と絵画の手法を融合させて創作しています。「現代」に生まれた作品を、まるで千年後という「未来」に発見された「過去」の作品であるかのように見せることで、時のコラボレーションの形を浮かび上がらせているのです。現代の風景を千年後の未来の視点から眺めることを想定したこの作品を通じて、鑑賞者の方々には、雄大な時間軸の存在を再認識したり、不思議な懐かしさと未知の世界への期待を感じたり、未だ見ぬ世界へタイムスリップする感覚を味わって頂ければ幸いです。
撮影の舞台となったローマの遺跡。これらは見方によっては「過去の遺物」ですが、これらを単なる風景写真として撮ることは、私の意図とは全くもって異なることでした。むしろ、ファインダーを通じてそれらが未だ「遺物」ではなかった頃の人々の想いや足跡を感じ、それをレンズを通して捉えたい。作品の中には、古の人々の魂と繋がり、同時に千年後の未来の人たちの魂とも繋がり続けていく存在として、現代を生きる多くの人々が被写体として登場しますが、その人々のルーツとなった古の人々の情熱や愛を、HASHIGRAPHYの中で蘇らせたい。それを実現するために、現代における「過去」の遺跡、現代における「今」の人物、そして現代では想像上にしか存在し得ない「未来」の視点を、作品の中で同格に置き、一つの世界観の中で全てを表現するよう試みました。 「古(いにしえ)にロマンを求め、現代(いま)を捉え、未来に託す」……そんな想いから、今回の作品群は生まれました。
HASHIGRAPHY - ROME: Future Déjà Vu - 『ローマ 未来の原風景』作品集より(2009年9月発売)
