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A NOTE TO YOU, THE READER—この作品集をご覧くださるあなたへ
二十年以上前、私の父であるHASHIは、それまでの通常の写真プリントの方法に捉われない、独自のプリント方法の開発に着手した。存在する写真に手を加えることで、それぞれに個性を持たせる。HASHIが本当に表現したいことを可能にする新しい手法を発見するために、HASHIは筆を手に取った。自ら開発したその手法を、HASHIはHASHIGRAPHY(ハシグラフィー)と名付けた。
作品創りに使われたネガはのほどんどは、HASHIが約二十年以上前にヨーロッパを訪れた時に撮影されたもので、被写体となったオブジェクトや場所を示す資料は既にどこかに無くなっていたが、2006年、東京都写真美術館での個展開催にあたって、それらが必要となった。情報の多くはインターネットで見つけることができたが、最終的に、誰かがヨーロッパへ飛び、古いコンタクト・シートを宝探しの地図のように使いながら、約二十年以上前のHASHIの足跡を辿る必要があるという結論に達した。そして、その役割が私にまわってきた。それは素晴らしい仕事だった。
ヨーロッパ中を電車でまわり、一日の食事はパニーニ(イタリア風サンドイッチ)二つと水。服とカメラを背中に背負い込み、コンタクト・シートと地図を手に、時には歩き、時には自転車に乗って場所を訪ね、この素晴らしいパズルの一つ一つを繋げていく。父親の足跡を丹念に辿っていくのに、最も適任な者として、息子をおいて他に適任者がいるだろうか。
2008年半ばに、父から再び電話があり、HASHIGRAPHYの手法で、二つ目のプロジェクトに着手する、このプロジェクトは日本の国立西洋美術館で開催される『ローマ 未来の原風景 by HASHI』展である、と告げられた。父は、新作の撮影のために秋にローマに行くのだが、興味があれば、この旅行に同行しないかと私を誘った。私は即答し、スケジュールを空け、それから数ヵ月後にはイタリアへ飛んでいた。
その一週間、私は機材を運びながら父と一緒にローマ中を歩き、地図の読解に努めた。その間私は、父が人生の中で最も愛し、そして私にも幼い頃から愛することを教えてくれた、写真を撮るという作業に向き合う父の姿を眺めていた。私たちは、素晴らしい人々と会い、ローマやイタリアや、その歴史について、お互いに深く語り合った。一緒にメトロの乗り方を覚え、興味をそそられる場所やオブジェクトについて互いにアイデアを出し合い、そうしているうちに、お互いの考え方について、より尊重できるところまで、人としてそれぞれ少し成長したのではないか、と私は考えている。
その週、私達がイタリアから持ち帰ったネガは傑出したものだと私は思う。そして、それらは、今、あなたが手にとっていらっしゃる本の土台になっているはずである。
私としては、これらの作品に対して父が抱いたビジョンと、強い想いを皆さんに感じて頂けることを、心から願っている。
橋村賢太郎
2009年7月
HASHIGRAPHY - ROME: Future Déjà Vu - 『ローマ 未来の原風景』作品集 あとがきより
(2009年9月発売)
